2015年12月8日火曜日
美味しいお肉は好きですか
今から3年前、フィリピンに留学中にミンダナオ島へ行った。日本の学生数人がゼミ合宿でミンダナオ島にある孤児院に数週間滞在するというので、現地参加させてもらったのだ。
日本人の館長さんが運営する孤児院では、30人は超えるであろう子どもたちが歓迎のダンスを見せてくれた。
その日のお昼、「今夜はごちそうだから市場に行ってくるよ」と子どもたちと館長の方が言う。
数時間後、現れたのは紐につながれて歩く一匹の豚と、足首をつかまれバタバタ暴れる10羽のにわとりだった。
「じゃあ始めるよ」
子どもたちが豚のまわりに集まり、私も含めた学生たちはおずおずと輪の後ろに加わる。
「誰かやりたい人―?」
私たちに尋ねる館長さんの言葉に思わずぎょっとして、お互いに目を合わせた。しばらくの沈黙の後、一人の男子学生が前に出た。
館長さんが殺し方を教え、男子学生は豚の首に刃渡り30センチほどの包丁を突き刺した。その瞬間、豚は雄たけびをあげた。「キィィィー」という鳴き声。車の急ブレーキを思い出した。
包丁を抜くと真っ赤な血がとろとろとろ、と流れた。ほかほかと温かいだろうなと思わせる血だった。
子どもたちが「キエーー」と笑いながら豚の鳴き声を真似する。そうか、彼らにとっては当たり前の日常なのだ、とふと思った。
次に、皆でにわとりを殺した。細い首に包丁をあてる。再び「グアァァー」と断末魔の雄たけびが響いた。
また、子どもたちは「グァー」「グァー」と言い合って笑う。私も真似して「グァー」と言って笑った。心の中は殺気立って仕方なかったが、私は大笑いした。私は何にも気にしてない、というように笑った。そうでもしないと心が耐えられなかった。
やがて命が途絶え、くたっとしたにわとりの羽をむしっていく。見慣れた鶏肉の姿になっていく。
豚は口から肛門まで鉄の棒を突き刺し、丸焼きになった。
その日の夜、豚の丸焼きと、フライドチキンという美味しい美味しいごちそうを食べた。さっきまで暴れまわっていた生き物とは思えなかった。
いま、一人暮らしをする私は、一週間に一度スーパーへ行く。肉の中で一番安い鶏むね肉のパックをかごにいれ、安売りされていれば薄切りの豚肉も買う。
ピンク色のつやつやしたお肉。
鶏むね肉の塊を包丁で切る。むにゅっと柔らかく、少し抵抗する感触。思わず自分の首をすくめる。薄っぺらい豚肉をフライパンで焼く。あの丸々とした豚と薄っぺらい肉が結びつかなくて何だか混乱する。
料理になった肉をひとくちひとくち噛みしめながら、美味しいお肉でお腹を満たす幸福を感じる。頭の片隅では、命が途絶える雄たけびを思い出す。
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