久しぶりに実家に帰ると、父がクリームシチューを作っていた。気持ちよく晴れた秋の土曜日の昼下がり、シチューの甘い匂いをかぎながらぼんやりと机の上の新聞を読んだ。この平和で平凡な時間に、何だかめまいがするかと思った。
一人暮らしをしていると時々思う。生きることは戦いだ、と。溜まった洗濯物を洗って干すこと、食器を綺麗にすること、ちらかった部屋を片づけること、溜まったごみを捨てること。家事とはマイナスをゼロにしていく作業だ。その作業を毎日、営々と繰り返すのだ。
それは下っていくエスカレーターに乗りながらも、抗って上に行こうとするようなものだと感じていた。生活するとはなんて途方もないのだろう、そう思っていた。
実家に帰ったときに感じた幸福感。それは、私はあまりにも無意識で気が付かなかったけれど、確かに父と母と祖母がきちんと生活を営んでいたのだという事実を思い知らされたからであった。毎日手作りのごはんを食べさせてもらうこと。服を綺麗に洗ってもらうこと。片付いた家に帰って来られること。家族の中にいた時にはそんなことに無自覚で、わがままな私は時に彼らを疎ましく思ったりもした。
けれど、ずっと家の中は、どこまでもひたひたと幸せで満たされていたのだった。その事実に何だか頭がくらくらし、生活することは楽ではないけれど、戦いではないのかもしれないな、と少し思った。
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