2015年7月30日木曜日

新橋でのナンパ

数か月前、東京で就職面接を受けた帰り、私は新橋駅で人と待ち合わせをしていた。その日は土砂降りの雨で、湿気と汗でブラウスが肌に張り付き、気持ちが悪くて仕方なかった。

改札前で、待ち合わせ相手に連絡をしようとスマホでLINEをひらいたとき、どこからかすっと男性が近寄ってきた。40代後半ぐらいだろうか。スーツを着て、サラリーマンのように見えた。

「LINE、交換しませんか」

男性は、ぼそっとつぶやくように話しかけてきた。私はとっさにスマホをかばんにしまい、「すみません」と頭をさげてその場を立ち去ろうとした。

20メートルほど移動して、もうここなら大丈夫だと再びスマホを取り出したとき、またその男性が近づいて来て、言った。

「食事でもどうですか」

後をついてこられていたことに私はぞっとした。無表情でじっと目をそらさない男性に、恐怖しか感じなかった。

大げさではなく、その時私は怖くてしばらく動けなかった。「この人はずっとついてくるつもりだろうか、断れば暴力をふるわれたりしないだろうか、力ずくで連れて行くつもりではないか」と最悪な状況ばかりが頭に浮かんだ。

はっと我に返り、早足で人ごみに紛れるように遠くへ遠くへ逃げると、もうその人はいなくなっていた。そのあと、私は無性に悲しかった。私ひとりが怖い思いをして、なんだかばかみたいじゃないか、と。

待ち合わせの相手は、私が好きな男の人だった。公共の場でべたべたするのは恥ずかしいので手をつないだりはほとんどしたくないが、その時は、彼を見つけるとすぐに手をつかんだ。

改札を通る時に再び、私に話しかけてきた男性を見かけた。別の女性ターゲットを探すように、ふらふらと歩いていた。その人が、好きな男の人と手をつなぐ私の姿を見てくれればいいのに、と思った。

あの人は、私が一緒に食事に行くことを了承すると思ったのだろうか。どこかに連れていけるとでも思ったのだろうか。

あとから人に聞くと、どうやら新橋駅前は夕方から夜にかけてナンパスポットと化すらしい。そういう出会い方を否定するわけではない。けれど、あの時恐怖しか与えなかった男性に、今は哀れみしか感じていない。

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