先日知り合いに誘われてライブに行った。音楽事務所に所属する新人歌手の方たちが出演するライブだ。
歌手を目指すだけあってどの人も相当歌が上手かったのだが、一人とても印象に残った方がいた。私よりも少し年下ぐらいの男性。MCでこんなことを話していた。
中学校からテニスが得意で高校では大きな大会にも出場した。だから何も考えずに将来はテニスの指導者になろうと決め、そのための専門学校に入った。そして卒業して指導者になった。だけど、自分の先生に「お前楽しいか?これが本当にしたいことか?」と聞かれ、ふと疑問に思った。その時初めて自分のしたいことは何か考え、歌だと思った。そんな甘い世界じゃないとわかっている。親にも友達にもそう言われる。だけど自分は、自分の歌で誰かを元気づけたり勇気づけたりしたい。
真剣な表情でゆっくり言葉を選ぶようにぽつりぽつりと話した彼は、そのあと、ゆずの栄光の架橋を歌った。とても伸びやかな、一生懸命な、切実な声で、聴いててうっすら涙が出た。
他の歌手の人たちも相当に上手だったが、その彼が印象に残っているのは、彼自身が自分の物語を語ったせいだ。バックグラウンドを知ると、より惹きつけられる。頑張っているんだろうな、と勝手に感情移入してしまう。
現実的に考えると歌手を目指すというバクチのような夢よりも指導者を続けた方がいいんじゃないか、とかそういう突っ込みがあるのだろうけど、今彼は歌うことに一生懸命で、何だかその切実さに、どうかこの先、ヒットを飛ばすような歌手にならなくても、どこかで歌っていてほしいと思った。
そしてふと思い出したことがあった。フィリピンにいた時、孤児院を経営する男性に言われた言葉だ。その時私は、浪人して大学も休学して人生を遠回りしていることの不安を話していた。それに対して、こう言われた。
「人は物語に興味をもつんだよ。商品も、どういう人がどういう理由で作っているかという物語がその商品により価値を与える。だから、自分で物語を作ればいい。物語の語り方次第で、人は君に興味を持つかもしれないしね。だから遠回りしていることも自分でどんどん面白いストーリーにしていけばいいんだよ。」
その時は、「はあ、物語ですか..」という感じで聞いていたのだが、ライブに行って人生を語る男性の歌声に涙して実感した。
ああ、物語は必要だなと。そして人は物語を求めていると。
芸能人のスキャンダルがメディアを賑わせるのも、「自分に夢を与えてくれる人がどんな生活をして、何をしているのか、どんなことを考えているのか」みんな興味があるからだろう。
だから、自分の言葉で自分の考え、体験を面白おかしく語りたい。それが例え自己満足でも、「いやー素晴らしいストーリーだった」と思って人生物語を終えたい。
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