2014年6月8日日曜日

祖母の話に続き、弟の話を

現在むさ苦しい大学生である弟にも、野球に打ち込む青春のきらめきのような時代があった。とりわけ中学時代のことは、彼にとっては辛く苦しい経験であろうとも、私にはそれはきらめきにしか見えないのだった。

弟は小学校から野球を始め、少年野球では下手なりにエースをつとめていた。その後、中学でも野球を一生懸命やりたいと中学の野球部ではなく、地元のクラブチームに入った。そこは、県内屈指の野球少年たちが、弟のように自発的ではなくスカウトされて入団してきているクラブチームだった。

小学校ではエースだった弟は学年で一番足が速かったが、クラブチームにはもっと速い子がごろごろいた。身長も体格もずっと大きい子たちばかりで、弟はあっという間に1番下の選手になった。レギュラーになれない。背番号ももらえない。もちろん試合にも出られない。

結局一度も試合に出ることはないまま、しかし休むことなく3年間練習に通い、彼はクラブチームを引退した。そして高校生になると、野球をぱったりと辞めた。

「この景色を見ると苦しくなる」
ある日大阪に行ったとき、弟はそう母にこぼしたそうだ。そこはかつてクラブチームの遠征で何度も通った場所だった。同級生や後輩が試合に出るのを、ベンチから見ているだけだった。帰って来ても弟のユニフォームは洗濯したばかりのようにきれいなままだった。

弟は、自分の心情を吐露することがほとんどない。いつもひょうひょうとしている。その彼が、思わず口に出してしまうほど、クラブチームでの経験は辛く苦しいものだったのだろう。

ここまで書いたところで、弟の経験を私はあくまで想像するだけで、本当の気持ちはわからないし何か言える筋合いもない。だけど弟よ。そうやって自分を打ち砕かれる経験ができたっていうことはとってもラッキーだよ、とだけ言いたい。

人には言えない苦しみや悔しさを抱えながら、どうか強くやさしい男になるのだ!と姉は心の中で励ます。

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