2014年5月2日金曜日

言葉が未熟だった頃

人生の中で、鮮明に覚えている瞬間というものがある。
たとえそれがどんなに昔のことであっても。

その時、私は3歳だった。ある日、保育園の3歳クラスに大量のおはじきが届いたことがあった。箱いっぱいに入ったプラスチックのおはじきにみんな大喜びし、おままごとや、転がしてあそんだり、アクセサリーのようにしてみたり、思い思いに遊んでいた。

私は一人で、2リットルの空のペットボトルにひたすらおはじきを詰めるという作業に熱中していた。ぎっしりと色とりどりのおはじきで埋め尽くされていくペットボトルは、うっとりするほど美しかった。せっせと詰めて、やっといっぱいになった!とキラキラしたペットボトルを眺めていたとき、先生が急に怒った。「何してるの!こんなことしたら、おはじきが取り出せなくなるでしょう!」

先生はペットボトルを逆さに持った。驚いたことに、おはじきは外に出てこなかった。ぎゅうぎゅうに詰まったおはじきは、逆さにしても直径2センチぐらいの口から落ちなかったのだ。

口が開いているのに落ちない!その事実に3歳の私は驚愕した。

先生は怒り続ける。
「こんないっぱい独り占めしてみんな遊べないでしょ」
「ほら、もうおはじき出てこなくなったでしょ」

でも私はその時聞きたかった。「なんで、どうして、すごい、入れたのに出てこないなんて」
でも、聞けなかった。聞くべき言葉がわからなかった。その時のもどかしい気持ちと、怒られているということの決まり悪さ。

昔のことはあまり覚えていないのだけど、この3歳のときの出来事だけは20年経った今でも鮮明に思い出せる。ぎっしり詰まったおはじきの美しかったこと、突然先生に怒られた言葉の一言一句、そして口が開いているのに逆さにしても中に入っているおはじきが落ちてこなかったこと。

その時のことは母にも言えなかったし、誰にも言わなかった。あの美しさとか驚きを誰にもわかってもらえないだろうなと何となく幼い頭で思っていた。それに、その状況を伝えられる言葉をまだ3歳の私は持っていなかった。

ブログを書きだして、あの頃の自分と向かい合うことができ、やっと言葉にできてほっとしている。

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